第141話 大人のお勉強


 サラの妊娠が発覚したのは一週間前のこと。
 あれ以来、シュウたちの間では新たに生まれてくる家族のことで話が盛り上がることもしばしば。

 三つ子の部屋の中。

「サラ姉ちゃん似の子が産まれるかな、それともレオ兄似かな」

 と、宿題をしながらユナ。

「どっちに似ても綺麗な顔した子…」

 と、薬の調合をしながらマナ。

「だよね、だよね! あたし、女の子がいーな♪」

「あたしは男の子かな…」

 と言いながら、マナが薬を小瓶の中に注いだ。
 ユナが首をかしげる。

「その薬、何の薬?」

「レナに…」

 と言って、仕上げの魔法を掛けるマナ。

「レナに?」と、レナに顔を向けたユナ。「……ああ、そうだった。レナの頭は明日のことで一杯なんだった。うん…、物凄く薬の力が必要そうだね」

 苦笑しながら納得した。

 ユナとマナの傍ら、レナはベッドの上に直立して立っていた。
 顔を真っ赤にしながら、全裸で。

「ユ、ユナ!? マナ!?」と声を裏返しながら口を開いたレナ。「ああああああたし、変じゃない!?」

「……(変…)」

「あ、あああ、あたしの身体どう!? モ、モモモ、モモ肉は!? ム、ムムム、ムネ肉は!? か、かかか、皮は!? ボ、ボボボ、ボンジリは!?」

「焼き鳥か」

 と突っ込んだユナとマナ。
 ユナが苦笑しながら言う。

「緊張しすぎだよ、レナ。そりゃ、ミヅキくんの前でマッパになるのは緊張すると思うけどさあ」

 明日ミヅキ宅へと行くレナ。
 ミヅキへの誕生日プレゼントとして、ミヅキの作る人形のモデルになる。
 つまり、ミヅキの前で全裸になるのだが。

「ああああああっ! やっぱり恥ずかしいよおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 と叫び、レナが布団の中に潜り込んだ。

 溜め息を吐いたマナ。
 出来上がった薬を持って、レナのところへと歩いていく。

「ミヅキくんにお人形作ってもらいたいんでしょ、レナ…」

「そ、そうなんだけどおぉ!」

「だったら勇気を持って…」

 がばっ!

 とレナの布団をめくったマナ。
 丸まっているレナに薬を渡す。

「ほら、薬作ったから…」

 レナがそれを受け取って訊く。

「ど、どういう薬?」

「うーん…」と、ぽりぽりとコメカミを掻くマナ。「言うならば…、『大胆になれちゃう薬』…」

「だ、大胆に? そ、そっかっ…! 大胆になれたら、脱ぐのなんて恥ずかしくないよねっ……!」

 マナが頷いて続ける。

「それから、徐々に興奮するように作ってあるから…」

「じょ、徐々に興奮?」

「彼氏と彼女が部屋の中に2人きり…。彼女はマッパ…。何も無いとは行かないらしいよ…」

「えっ、あっ…!」と、ユナが声をあげて頬を染めた。「そ、そうだよねっ…! わあぁ、レナ大人になってくるんだあぁっ……!」

「えっ!?」と、レナがユナとマナの顔を交互に見る。「えっ、あっ、ええっ!? や、やっぱりそういう展開になっちゃうの!?」

「なるって言ってた…、サラ姉ちゃんが…」と、マナ。「だから…」

 ぽん、とレナの肩を叩いた。

「ミヅキくんがドールの設計図書き終わったあと、興奮して盛り上がってきて…」

「って、言われてもおぉ!」と、レナの顔が真っ赤に染まっていく。「ど、どどど、どうすればいいの!? そ、そそそ、その、エエエエエエエエエエエエエエエエエッチのとき!? こ、こ、こ、声とか!? せ、せ、せ、台詞とか!? こ、こ、こ、行動とか!?」

「そういうのは、サラ姉ちゃんかカレンちゃんに…」

 と、いうことで。

 レナは寝巻きを着て部屋を出ると、シュウ・カレンの夫婦部屋へと向かって行った。
 学んだことを携帯電話にメモろうと思ったが、充電中。
 よって、手にはメモ張とペン。

(一瞬サラ姉ちゃんに聞こうかと思ったけと、普通の女の子とは違いそうだしね)

 コンコン、とシュウ・カレンの部屋のドアをノックしたレナ。
 反応が無くて、首をかしげながらドアを開ける。

「…あ、兄ちゃんとカレンちゃん、お風呂中か」

 レナは中に入ると、部屋の中を見回した。
 そして、作り付けのクローゼットの中へと身を隠す。

(兄ちゃん、カレンちゃん、ごめん…。ここは実際のシーンをこの目で見て勉強するのが一番っ……!!)

 と、メモの準備をするレナ。
 そしてクローゼットの隙間から部屋の中を見た瞬間。

「フィーバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!!」

 ドカァァァンっ!!

 とバスルームからライダーキックで飛び出てきた真っ裸のシュウ。
 レナ、思わず声をあげそうになる。

(あぁー、びっくりしたっ…! に、兄ちゃんて、いつもこうなんだろうか……)

 と少々兄の姿に衝撃を受けながら、その行動や台詞をメモる。

(役に立たないかもだけど、一応ね…)

 続いて、バスルームの中からカレンの声。

「ねえ、シュウ? 最近修行の方はどうなの?」

「うん、だんだん母さんの攻撃見れるようになってきた」

 と言いながら、全身鏡の前に立ったシュウ。
 ボディービルのポージングを始めた。

「うーん…、まだまだ親父の筋肉には敵わねーけどオレも中々……」

 レナ、眉を寄せながらメモる。

(テレビでお風呂上りにそういうことしてる男の人いるっていうの見たことあるけど、まさか兄ちゃんもやってたなんて…)

 シュウがにやにやと笑いながら訊く。

「なあ、ハニー。まーだー?」

「何よ、もう。お風呂場でもしたのに、またするの?」

「するー」

 という会話を聞いて、手にしっかりとペンを握ったレナ。

(おっ、始まるみたいだぞっ…!)

 どきどきとしながら待っていると、カレンがバスタオル一枚で出て来た。

「んもーう、仕方ないわね、アナタってば…!」

 と言いながら、ベッドへと向かっていくカレン。
 シュウとカレンを見たままレナの手が動き始める。

 カレンがベッドに寝転がり、頬を染めながら言う。

「ヘイ、カモォォォォンっ…♪」

「フィーバァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!!」

 と、絶叫しながらカレンに飛び掛ったシュウ。
 カレンのバスタオルを剥ぎ取って床に投げ捨て、カレンに負い被さった。

 濃厚なキスを始める2人にレナは顔がぼっと熱くなってしまうが、メモを取る手はしっかりと動いている。

(うわぁあぁあぁあぁ…! お、大人って、あんなキスするのおぉぉぉっ……!?)

 ようやくキスが終わったと思ったら、カレンの身体に吸い付き始めるシュウ。
 レナ、プチパニック。

(わわわわわっ…! あたしもミヅキくんにあんなことされんの……!?)

 カレンが恥ずかしそうに声をあげる。

「ダ…ダメェっ……!」

(あたしもダメェェェェェェェ!!)

「そんなとこ嫌っ…!」

(いっ、いやあああぁぁああぁぁああぁぁあああぁぁああぁぁああぁぁあぁぁあああぁぁあっ!!)

 レナ、心の中で絶叫。
 顔を通り越して首まで熱くなっていく。

(兄ちゃん何してんの兄ちゃん何してんの兄ちゃん何してんの!? って、わああああああっ!! カレンちゃんそれ何してんの何してんの何してんの!?)

 と目の前で繰り広げられる光景に驚愕しながらも、メモを取るレナの手は必死に動いている。

(に、兄ちゃんベッド下の引き出しに手を持っていったあああぁぁあぁぁあっ!! あっ、あれがパパが一週間に100個以上消費すると噂の、コ、コココ、コンドーーームですかぁぁああぁぁああぁぁあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁああぁぁあぁぁあ!? っていうか、兄ちゃん何ソレ…! 何ソレ何ソレ何ソレっ!! そ、そそそ、そんなの入るわけ……って、嘘ぉおぉぉぉおおぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉおおぉぉぉおっ!!)

 シュウとカレンのイトナミは後半戦になり。
 レナのパニックはピークに。

「デ…デリシャスっ……!」

(デ、デリシャスって兄ちゃん!! そんなの鼻にパイナップルじゅわんっ!! 痛いよ痛いよ痛いよおおおおおおっ!! いっ、痛いの痛いの飛んでけえぇぇええぇぇええぇぇええぇぇえっ!!)

 と、レナの脳内は限界に達し。
 これ以上見ていることが出来ず、クローゼットの中から飛び出した。

「お、おおお、お邪魔しましたああああぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁあああぁぁぁあっ!!」

「――!!?」

 シュウとカレンが驚愕する目の前、レナが部屋から飛び出していった。
 シュウとカレンの絶叫が響き渡る。

「見・て・た・のぉぉおおぉおぉぉぉおおぉぉおぉおおおおおぉぉぉぉおおぉぉぉおおおっ!!?」

 レナは自分の部屋に飛び込んだ。

 バンっ!!

 とレナが勢い良くドアを開けて飛び込んできたものだから、ユナとマナがぎょっとして振り返る。

「た、たたた、ただいま!!」

「お、おかえり…」と声をそろえたユナとマナ。「どうだった?」

「す、すごかった……!!」

「メモは?」

「ばっちり!!」

 と、メモに目を落としたレナ。
 シュウとカレンを見たままペンを動かしていたことと、パニックになったことで書いたことが滅茶苦茶になっていた。

「あ、あれ? ど、どこがどうで、どうだったんだっけ…!?」

「落ち着いて書き直してみれば…」

 と、マナ。
 レナは承諾すると、新たにメモに書き出した。

「でーきた! よ、よし、これで明日は完璧っ!」

「どれ」

 とレナに手を伸ばし、メモを受け取ったユナとマナ。
 箇条書きで書かれているその内容。

 一行目を見た瞬間から、衝撃を受ける。

(カレンちゃんがこんなことを…!?)

 その一行目の内容。

『誘惑するときはボディービルのポージングで「ヘイ、カモォォォォンっ!!」と絶叫』

 レナが新たにメモに書き直したその内容は、全てが間違っていた。

「これで明日のミヅキくんとの初体験は完璧ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

 だったら凄い…。

 と、ユナとマナは思った。
 
 
 
 
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