第136話 気付きました


 キャロルとタマがいる寺を後にしたシュウとカレン、サラ、レオン。
 寺のある山の周りを周っていたら川を発見し、そこでこれから10日間過ごすことにした。

「ここなら人気がないし、お寺も近いし、川で魚も獲れそうだし、ビールも冷やしやすそうだし、寝泊りしやすそうだよね」

 と、サラ。
 カレンが同意して頷く。

「お寺にお風呂借りに行っている間に荷物が盗まれる、なんてこともなさそうなのですわ。桂月村? も、遠いみたいだし。ねえ、シュウ?」

 と、レオンと共に川岸にテントを張ってテーブルやら何やらを設置しているシュウに顔を向けたカレン。
 何か考え事をしているようなシュウの横顔を見て、首をかしげた。

「どうかしたの、シュウ?」

「いや、大したことじゃねーんだけどさ…」

 うんと頷きながら、カレンとサラ、レオンがシュウの言葉に耳を傾ける。

「あの和尚さん、何でオレが母さんの子供だって分かったんだろうと思って。オレの顔なんて親父と瓜二つだし、母さんに似てるわけじゃねーのに…」

「ああ、そういえばそうだよねえ」と続いたサラ。「タマちゃん、兄貴を見てママの子供だって察した感じだったよね。アタシの方がまだママの子供だって分かりそうなもんだけど、このママ譲りの黄金の瞳で」

「そう言われればそうですわね」と、カレンも続く。「和尚さま、どうしてシュウがお義母さまの子供だって分かったのかしら。シュウとそっくりなお義父さまの顔も知らないみたいなのに…」

「だよな、考えれば考えるほど不思議だよな。なあ、レオ兄どうして?」

 と、レオンに顔を向けたシュウ。
 カレンとサラもレオンに顔を向ける。

 動きの止まっていたレオンが、再び手を動かしながら言う。

「さあ? 野良猫の勘じゃないかな」

 それを聞いて笑ったシュウとカレン、サラ。
 あまり深く考えず、納得したようだった。

 表面上、シュウたちと一緒に笑っているレオン。
 その胸中は、あまり穏やかではなかった。
 タマがシュウに母親の名を訊き、その名がキラだと知ったときの反応を見て以来、ずっと。

(ミックスキャット――ブラックキャットとホワイトキャットの間に生まれた僕は、ブラックキャットの力を継がないで産まれてきたけど…。もし継いで生まれてきたら、感じることが出来ただろう、タマ和尚のように……)

 何故タマは、シュウがキラの子供であることを察したのか。
 その理由はただ1つ。
 レオンは知っていた。

(シュウ、君はキラの闇の力を継いで生まれて来ていたんだね…。しかも、母親がキラだと分かるほどの大きな闇の力を……)

 レオンの脳裏にリュウの顔が浮かぶ。
 普段の最強で俺様な姿からは想像もできないような、恐怖に怯えたリュウの顔。

 胸が痛むと同時に、キラがずっとシュウの力を黙っていた理由を察した。

(そうだね、キラ…。そうだね…、愛する主のそんな顔なんて、見たくないね……)
 
 
 
 夕方。
 境内からこそこそと出て行こうとするキャロルの右肩に衝撃が走った。

 ビシィっ!

「きゃあっ!」と声を上げ、振り返ったキャロル。「なっ、何するんですか和尚さまっ! 座禅のときに使うやつじゃないですか、その変な棒っ!」

「棒ではない、警策(けいさく)だ」

「棒じゃないですか」

「そうだけど。自由時間は21時からだというのに、どこへ行くつもりだ?」

「ちょっと魚を獲りに行って来るだけです。すぐ戻ります」

 そうにっこりと笑顔で言ったキャロルの右肩に、タマが警策でもう一撃。

 ビシィっ!

「きゃっ!」

「おまえが守るべき十戒(じっかい)の1つである、不殺生戒を破る気か?」

「じゃ、じゃあ、明日の食事の山菜を採りに…」

 ビシィっ!

「きゃあっ! な、何ですかもうっ!」

「良からぬことを考えておるな? キャロル」

「かっ、考えてませんっ!」

 ビシィっ!

「きゃんっ!」

「不妄語戒(ふもうごかい)を破るでない、キャロル。もう一度訊く。おまえは良からぬことを考えておるな?」

「考えてませんっ!」

 ビシィっ!

「いったぁーいっ!」

「不妄語戒を破るな――嘘を吐くな、と言っておるのだ。キャロル、おまえは良からぬことを考えているな?」

「考えてませ――」

 ビシィっ!

 キャロルの言葉を容赦なく遮る、タマの警策。

「考えてませ――」

 ビシィっ!

「考えてま――」

 ビシィっ!

「考えて――」

 ビシィっ!

「考え――」

 ビシィっ!

「考――」

 ビシィっ!

「いっっったあぁぁぁ…! なっ、何度も何度も何するんですかっ! この坊主頭っ!」

「坊主だもーん」

 ビシィっ!

「62のクセに何が、だもーん、ですかっ…!」

「そういうおまえだって坊主だもーん」

 ビシィっ!

「ちょ、和尚さ――」

「私と揃いだもーん」

 ビシィっ!

「やめ――」

「やめないもーん」

 ビシィっ!
 ビシィっ!!
 ビシィっ!!!
 ビシィっ!!!!

 バキっ☆

「あ」

 折れた。

 と、真っ二つになった警策を見て眉を寄せるタマ。
 その傍ら、キャロルがあまりの痛みに右肩を押さえて蹲る。

「……っ……!!」

「キャロル、おまえという奴は…」と、深く溜め息を吐くタマ。「警策が折れるまで叩かせるとは、ある意味素晴らしい根性をしておるな……」

「折れるまで叩くなんて、どんな鬼師匠ですかっ……!!」

「おまえはレッドドッグのハーフ。大した痛みではなかろう」

「痛いですっ! すっっっごく痛いですっ!! この坊主頭っ!! ハゲっ!! じじぃっ!!」

「警策ならばまだまだあるぞ? 次は背が良いか」

 と、タマがキャロルの腕を引っ掴んで寺の中へと向かっていく。
 じたばたと暴れるキャロルだが、タマのその力にはまるで敵わない。

「はっ、離してぇぇえええぇぇぇえぇえぇぇぇぇええぇぇぇえっ!!」

 右肩に続いて背をぱんぱんに腫れるまで叩かれたら、今夜は痛みで絶対に眠れない。
 タマはまるで母親のケリーのように恐ろしい。
 いや、それ以上かもしれない。

 寺の中へと引きずられて行きながら、キャロルは慌てて言う。

「ごめんなさいっ!! ごめんなさいっ、和尚さまっ!! もう二度と悪いことなんて考えませんからあぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁあぁぁぁあっ!!」

 寺の中、タマがキャロルから手を離して訊いた。

「キャロルよ。その言葉は不妄語戒に反してはいないか?」

「反していませんっ! 嘘なんかじゃありませんっ!」

 正座をし、そう訴えたキャロルの顔をじっと見つめるタマ。
 その灰色の瞳で、キャロルの心の奥底を見抜く。

「…とりあえず、悪いことをしようとした心は無くなったようだな」

「はい…」

 と頷いたキャロル。
 右肩がひどく痛んで、顔を歪める。

 タマが訊く。

「先ほどおまえは、どんな良からぬことを考えたのだ? シュウたち……、いや、またサラに何かしようとしたのか?」

「サラさんではありません。彼女には、本当に悪いことをしたと思っております。わたしのママが言っていた通り指もちゃんと元に戻り、そして無事にレオンさんと結婚できたと知って安心しました」

「ではカレンだな。カレンに何をしようと思っていた?」

 キャロルが間を置き、再び口を開く。

「……和尚さま、わたしが薬に詳しいのはご存知ですか」

「うむ。おまえの母のケリーがそんなことを言っておった」

「だから、このお寺の周りに生えている薬の材料は全て知っております」

「しょっちゅう修行から逃げて境内の外へ行くからな、おまえは」

「その薬の材料の中にあったのです」

「それは察するに、猛毒の含まれている草の根のことか」

 タマの顔を見上げたキャロル。

「ご存知でしたか、和尚さま」と声を高くした。「普通は知らぬ草を知っているとは、驚きました。感嘆の溜め息が出てしまいそうです」

「当然であろう」と、タマが呆れたような顔になった。「この島で生まれ育って62年。私を舐めるでない。あの根を食べたら最強を歌われるブラックキャットといえど5分で全身がしびれ、10分後には心臓が止まりそうになってしまうことなど知っておる。ああ、恐ろしい…」

「……。…もしかして、食べたんですか和尚さま」

「ギクっ」

「食べたんですね?」

「…ポ…ポチが美味そうに食べてたのを、ポチが見ていない隙に少し齧っただけだ。まさか毒が含まれているとは思わなかったぞ…。ポチは身体までバカなのか桁外れの強さ故にか知らぬが、毒がまるで効いていなかったが……」

「ポチさんから盗んで食べたということですか? それは不偸盗戒(ふちゅうとうかい)に反しますよ、和尚さま」

「あ、あのときは僧ではなかったからいいのだ」

「そうでしょうか。というか、よく生きてましたね和尚さま」

「狼狽し混乱したポチの爪で腹を切り裂かれてな。ポチが胃から早々にそれを取り出してくれたが故に助かったぞ。もう少し長い間体内に入っていたら、きっと私はあの世にいっていた。本当にポチには心から感謝する」

「……。あの…、裂かれたお腹はどうやってくっ付けたんです?」

「ポチが続飯(そくい)でくっ付けた」

「何ですか、それ」

「米粒を潰して作った糊」

「は…?」

「その場で一週間おとなしくしていたらくっ付いたぞ、腹」

「…………」

 突っ込み所が満載過ぎて突っ込めないキャロル。
 話を戻した。

「それで、わたしはその猛毒が含まれている草の根を採ってこようと思ったのです」

「…採ってきたそれを、どうするつもりだった」そう訊きながら、立ち上がったタマ。「カレンに食わせるつもりだった……とは言うまいな?」

 新たな警策を手に握り、キャロルの周りをゆっくりと歩き始める。
 タマがちょうどキャロルの背後へと来たとき、キャロルが答えた。

「言いませ――」

「愚か者がぁっ!!」

 ビシィっ!!!

 と、キャロルの頭に振り下ろされた警策。

 バキっ!

 と折れたそれを見ながら、タマがはっとする。

(えっ、言いませんって言おうとした…!?)

 キャロルが頭を抱え、猫の3倍はあろうか犬の牙をむき出しにしてタマに振り返る。

「和尚さま…!? 今、間違えましたね……!?」

「…う…ううん?」

「不妄語戒に反してます…!!」

「…に、忍辱(にんにく)の心を忘れたのか、キャロル?」

「いいえ、忘れてません。我慢し、耐え忍び、怒らず、かっとしない…でしたよね……!?」

「う、うむ。だ、だから怒るな(い、犬の牙こわーい…)」

「和尚さまが間違ったと謝ってくれるなら怒りません…!」

「…ま、間違いは誰にでもあるんだも――」

「謝ってください…!」
「…ご、ごめんちゃい……」

 と言ったタマの顔を見、牙を引っ込めたキャロル。
 溜め息を吐き、背後のタマから正面へと顔を戻した。

 そして話を続ける。

「採ってきた草の根を、カレンさんに食べさせようとなんかしていません」

「そ、そうであったか。ではどうするつもりだったのだ」

「飲ませようとしたんです」

「おお、なるほど。煎じて茶にしてな――って、同じではないかっ!!」

 ビシィっ!!

 と、先ほど折れて短くなった警策で再びキャロルの頭を叩いたタマ。
 警策はさらに折れて短くなった。

 再び頭を抱えるキャロルに、猫の牙を剥き出しにして詰め寄る。

「キャァァァロルゥゥゥゥゥゥゥゥ…! おーまーえーとーいーうーやーつーはぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

「に、忍辱の心を忘れてはいけません、和尚さま(ヤ、ヤダ、こわーい…)」

「謝るのだ、私に…! 謝るのだ、謝るのだ、謝れえぇぇぇええぇぇぇぇえぇぇぇえ……!!」

「…ごっ、ごめんなさい……」

「…まったく、おまえというやつは……」

 と溜め息を吐いたタマ。
 キャロルと向き合って座り、話を続けた。

「そんな猛毒を飲まされたら、人間のカレンは一溜まりもない。もう考えていないとはいえ、何故おまえはそんなことをしようとした」

 正座をしているキャロル。
 膝の上で両手をぎゅっと握り締めて俯いた。
 手の甲の上に、ぽたりぽたりと涙が落ちていく。

 そして声をあげた。

「だって…だって、好きなんです! わたしはやっぱり、シュウさんのことが好きなんです! シュウさんがカレンさんと結婚したと知った瞬間、再びカレンさんへの憎しみが込み上げてきたんです! だからわたしは、カレンさんに毒を飲ませようとしたんです!」

「…っ……」

 顔を歪めるタマ。
 キャロルが続ける。

「どうしてシュウさんに愛されるのはわたしじゃなかったんです…!? どうしてっ…!? わたしだって、わたしだってこんなにシュウさんのこと好きなのにっ…! カレンさんに負けないくらい、シュウさんのこと好きなのにっ…! 好きなのにっ…好きなのに好きなのに好きなのにっ!! カレンさんなんかっ…、カレンさんなんか消えればいいのよっ!!」

「…っ……!」

 タマの顔がさらに歪む。

「カレンさんさえ消えてしまえば、シュウさんはきっとこのキャロルを見てくれるわっ! このキャロルのこと、きっと愛してくれるわっ! わたしにとってカレンさんは邪魔なだけっ! 消えればいいっ! カレンさんなんか、この世から消えてしまえばいいっ! カレンさんなんか――」

「ヘブッ!!」

 と、キャロルの言葉を遮ったタマのクシャミ。
 キャロルの顔が引きつる。

「黙って聞いていると思ったら、クシャミ堪えてただけですか和尚さま……!?」

「シ、シリアスシーンでクシャミしたら悪いと思っ――ヘブッ!」

「しかも何ですか、その潰れたような変なクシャミ」

「こ、堪えようとするとこういうクシャミが出るん――ヘブッ! ヘブッ! ヘブッ! ヘブンッ! ヘブンッ!? ウルトラヘブンッ!? だっけ!?」

「ヘブンではなくセブンです」

「あ、止まった」

「鼻水がアゴの下まで垂れてますが」

「ふんっ!」

「と吸ってまた鼻の中に戻さないでください」

「ちーんしてくる」

 と、立ち上がったタマ。
 離れたところに置いてあったティッシュを取り、ちーんと鼻をかむ。

「うーむ、風邪かな…」

「普通に健康に生まれてきた純モンスターがですか」

「もしやついに花粉症…」

「花粉飛んでませんが」

「ハッ! 誰かが私の噂を…!」

「キラさまのお父さまと2匹合わせると『ポチタマじゃーん』とか笑われてんじゃないですか、サラさんあたりに」

「何だ、ポチタマって」

「そういうテレビがあるんです」

「そうか、そういうテレビジョンが。ウルトラヘブンの次に見てみたいぞ」

 と、再びキャロルと向かい合って座ったタマ。
 キャロルにティッシュを一枚渡す。

「涙を拭け」

 キャロルが頷いて濡れた頬をティッシュで拭くと、タマが話を戻した。

「良いか、キャロル。私たち人というものは――」

「人じゃありませんけど」

「ひ、人に近いから良いのだ。揚げ足を取るな」と咳払いをし、タマは続ける。「本来私たちの心の中には、善と悪が共存しているもの。誰だってそうだ。だが、決して悪に負けてはならぬ」

「……」

「彼の――シュウの瞳を見たか、キャロル。純粋で、汚れのない美しい瞳をしておった。あれはポチの瞳と一緒だ。彼は決して悪に負けない、とても強い心を持っているということ。おまえがカレンを殺してみろ。おまえのその行動を、彼はまるで理解できないだろう。そして彼は、おまえの手の届かぬところに行ってしまうであろう」

「…じゃあ、じゃあ、どうすればいいんですか? 和尚さまっ…! わたしはわたしのため、邪魔者を消すやり方しか知らないっ……!」

 と、再び頬を濡らすキャロル。
 タマが続ける。

「誰だって自分が一番可愛いもの。だから他人と自分の幸せどちらかを選択しなければいけないとき、他人の幸せよりも自分の幸せを優先してしまう。それは仕方のないことだ。私たちが生物である限り」

「ならっ…! そういうこと言うなら、和尚さまだってわたしの気持ちが分かるでしょう!?」

「おまえが自分の幸せのため、必死になる気持ちは分かる。だが、カレンを殺したところで誰一人幸せになどなれぬ。待っているのは不幸だ。もう一度言うが、私たち生物は自分が一番可愛いもの。つまりそれは同様に他人もそうだと言うこと。私たちは自分の幸せと同じように、他人の幸せも考えられるようにならなければならぬのだ、キャロル。シュウのようにな」

「……シュウさんを諦めろ…と仰るのですか……?」

「彼はカレンを妻に迎えた。永久にカレンを愛することを誓った。彼はカレンを心から愛している。彼は今、とても幸せであろう。…キャロルよ、彼からその幸せを奪ってはならぬ。彼の幸せを願うのだ……、彼の幸せを」

 シュウの幸せ。

 それを聞いたとき、キャロルの頭の中にふとシュウの笑顔が浮かんだ。
 バカップルコンテストのときに初めて見た、シュウの笑顔だ。

 審査員の質問に長々答えていた様子のシュウ。
 キャロルの耳には何を喋っているのか聞こえなかったが、シュウのすぐ傍らにいたカレンのことを話しているということだけは分かった。

(わたしはあの笑顔がほしい。傍にあの笑顔がほしい。毎日のようにあの笑顔が見れたら、どんなに幸せだろうって思うわ)

 頭の中、想像するキャロル。

(そう…カレンさんの傍じゃなくて…、わたしの傍にあの笑顔が……って、えっ……!?)

 動揺した。
 カレンの傍から己の傍にシュウを置いた途端、シュウの笑顔が消えてしまった。

 その理由を考える。

(どうして…!? どうして消えてしまうの……!?)

 答えはとても簡単だった。

(…ああ…そっか…。…バカじゃないの、わたし……)

 と自嘲するほどに。

(あのシュウさんの笑顔は、カレンさんを想うが故にあったんじゃない)

 そして、

(わたしは、その笑顔――カレンさんを想うシュウさんの笑顔を、好きになっていたということ…。カレンさんの傍にいるときのシュウさんを好きになっていたということ……)

 頭の中、己に対して同じ言葉を繰り返す。

(バカだ、バカだ、バカだ…! わたし、バカだ……!)

 キャロルの頬がますます濡れていく。

(カレンさんを殺してしまったら、もうあの笑顔見れないじゃない…! もう2度と、見れないじゃない…! カレンさんを殺すということは、そういうことじゃない……!)

 タマの言った通り、カレンを殺して待っているのは不幸だけだった。
 己も含め、誰一人幸せになどなれなかった。
 ようやくそのことに気付いた。

 キャロルの頭に乗ったタマの手。
 キャロルがタマの顔を見ると、タマが微笑んでいた。

「ここで修行をし、そして強い心を持て、キャロル。そう…、おまえの愛する彼のようにな……」

 キャロルは嗚咽しながら頷いた。
 
 
 
 ちなみに。

「神とその友の名前を合わせると『ポチタマ』じゃーんっ! あーっはっはっは! 可愛いーっ!」

 タマのクシャミの原因は、キャロルの予想通りだった
 
 
 
 
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