第133話 流刑になりました
リュウとキラ、ミラ、ユナから遅れること30分。
森を抜けたところにある崖の上から物凄い音がし、シュウとサラ、リン・ラン、マナ、レナ、レオン、グレルは何事かと慌てて崖を上った。
そしてヒマワリ城の庭へと出るなり、シュウは驚愕して絶叫する。
「しっ、城がねえぇぇぇぇえぇぇぇぇぇえぇぇぇぇえぇぇぇぇえぇぇぇぇぇえぇぇぇええっ!!」
その傍らで、唖然としてしまうシュウの妹たち。
そこから前方30m地点。
芝生の上にキラを押し倒しているリュウと、リュウに押し倒されているキラ。
崩れた城の方へと顔を向けていた。
レオンが2人のところへと駆けて行く。
「ちょ、ちょっと、リュウ!? キラ!? なっ、なんってことしちゃったのさっ!!」
「へ?」と、レオンの方へと顔を向けたキラ。「私たち何もしてないぞ?」
一体何のことかと、きょとんとしている。
「なあ」と、レオンの方へと顔を向けたリュウ。「どうやら俺の剣圧で破壊しちまったみてーなんだけど」
これはヤバイと顔を強張らせながら、キラの胸を揉んでいる。
「――って、いつまで私の乳を揉んでいるのだリュウっ!」
「挟みてー」
「ああもう、あとで挟んでなよ!」と、リュウの手をキラから離し、レオンが続ける。「ヒマワリ城破壊したなんて、やばいよリュウ…! どうやら怪我人はいないっぽいけど、刑罰は免れないよっ…!」
「ど、どどど、どうすんだよ親父ぃぃぃぃいぃぃぃぃいいぃぃぃっ!!」
と、あまりのことに声を裏返しながら駆け寄ってきたシュウ。
妹たちやグレル、城にいる者を避難させていたリンクとミーナも駆け寄ってくる。
「ちょ、リュ、おま、何しっ……!!」
「落ち着けリンク」
「落ち着けへんっちゅーにっ!! 王子なんてカンカンになって怒ってんで!?」
とリンクが言うので、王子に顔を向けた一同。
駆け寄ってくる王子の顔が、明るい月明かりでよく見えた。
夜目の利くキラやシュウ、シュウの妹たち、レオン、ミーナにはその顔色まで良く見える。
真っ赤になって眉を吊り上げている王子。
立ち上がったリュウに、剣を振り下ろす。
「この愚か者があぁぁぁぁあぁぁぁあっ!!」
「王子」と、王子の剣を指で挟んで受け止めながら、リュウが訊く。「お怪我は」
「ない!」
「チッ」
「おまえ今、舌打ちしなかったか……!?」
「空耳っす」
「それよりリュウ! おまえは何ということをしてくれたのだ!!」
「ワザとじゃないっす」
「ワザとこんなことされて溜まるか!! 父は妙に落ち着きを払っているが、私は許さぬからな!!」
「さすが王」と、こちらへとゆっくりと歩いて来る王に目を向けたリュウ。「王子とは器の大きさがちげえ」
「なっ、なんだと!? それはどういう意味だリュウっ!!」
喚いている王子を無視し、リュウが王の前に膝を着く。
他の一同もそれに倣う。
すっかり白くなったアゴ髭を撫でる王。
王子と同じ青い瞳で、リュウを見つめながら口を開いた。
「リュウよ…」
「申し訳ございません」
「良い。いつかはやると思っていた…」と、苦笑しながら、王が深い溜め息を吐いた。「そなたとキラの屋敷が、この城の近くに建てられたときからな……」
「父上!」と、王子が口を挟んだ。「リュウに刑罰を!」
「しかしな、リュウにはもう長い間この命を守ってもらって――」
「父上! 城が破壊されたのですよ!? このまま何も刑罰を与えずに許すわけには行きませぬ! リュウに刑罰を! 死刑とは言わずとも、無人島に流刑にしましょう父上!」
流刑。
その言葉を聞き、衝撃を受けたリュウ一同。
(そ、そんな…! 親父が流罪だなんてっ……!)
と、今にも震え出しそうなシュウの傍ら。
「ふっ…、ふにゃあああああん!」と、キラが泣き出した。「私が悪いのだ! 私が我を失って逆上してしまったから悪いのだ! リュウは悪くないのだ! 罰は私が受けるのだあああああああ!!」
続いてユナ、ミラと泣き出す。
「うわあぁぁぁぁあぁぁんっ! パパは悪くないもんっ! あたしがパパとママの喧嘩止められなかったから悪いんだもんっ! 王子さまごめんなさあぁぁぁあぁぁぁああぁぁあいっ!!」
「私が悪いのです、王子さまっ…! 私がママの怒りをさらに煽っちゃったからっ…! お願いです、パパを流罪にしないでっ……!!」
王子、激しく狼狽。
「キっ、キラ!? ミラ、ユナ!? な、泣くでないっ…! わ、私はそのっ……!」
「俺の可愛い妻と娘泣かさねーでください、王子」
「すっ、すまぬリュウ! ――って、貴様あぁぁぁぁあぁぁぁぁあっ!!」とさらに怒り、リュウを指差す王子。「もう決めたぞ! やっぱり貴様は無人島に流刑だ!!」
「まっ、待ってくださいっ!!」
と、王子とリュウの間に立ちふさがったのはシュウだ。
両腕を広げ、必死にリュウを守る。
「待ってください、王子様っ! 親父を流刑にされたらっ…オレたち家族はっ……!!」
「案ずるな、シュウ。おまえのことはともかく、私がキラやキラの可愛い娘たちに苦労をかけさせるようなことなどすると思うか?」
「思いませんっ! でもっ…、でもオレは親父が流刑だなんてっ…! そんなっ……!!」
と涙目になってしまうシュウ。
己がリュウを必死に庇ったところで、王子の怒りが治まらないことは分かっている。
だけど庇わずにはいられなかった。
「親父は流刑にされるほど、悪いことはしていないはずです! 城破壊したのだって、ワザとじゃないんです! 知っての通り、親父はバケモノなだけであってっ…! 一家の大黒柱である親父が流刑にされるくらいなら、オレが罪を受けますっ!!」
「シュウ」
と、シュウの肩を叩いたリュウ。
今にも瞳から涙が零れ落ちそうなシュウが振り返ると、自若とした様子で続けた。
「仕方ねえよ」
「おっ、親父っ…!?」
「罪は罪だ」
「るっ、流罪にされる気かよ!?」
「ああ」
「そんなっ…!」と、大衝撃を食らったシュウ。「嫌だっ! 親父だって一応人間なんだっ! 何も持たされずに無人島に送られたら、きっと死んじまうよおぉぉぉおおぉぉぉぉおおぉぉおおっ!!」
と泣き叫んだ。
リュウがぽんとシュウの頭を撫で、続ける。
「心配すんなシュウ。この時期、それなりに食料はあるってもんだ」
「でもっ…! でもっ、無人島なんてっ……!!」
「大丈夫だ、シュウ。大丈夫だ」
リュウの優しい声。
シュウの瞳から涙が零れ落ちる。
「親父っ…! 嫌だよ親父ぃっ……!!」
「泣くな、シュウ。おまえは長男だ、しっかりしろ。…ほら、涙を拭え」
とリュウに言われ、シュウが涙を袖で拭った。
「よし…、もう大丈夫だな、シュウ?」
「う、うんっ…!」
「それじゃ、あとは頼んだからな」
「わ、分かったよ、親父…! オレっ…、頑張るからっ……!」
「ああ、頑張ってくれ」
「うんっ…!」
「流刑」
「うんっ……! ――って、は…?」
眉を寄せ、リュウを見たシュウ。
リュウが続ける。
「カレンも連れて行けば、ハネムーン気分だろ?」
「――!!?」
驚愕したシュウ。
絶叫した。
「ちょっ、ちょちょちょちょっと待てえぇぇぇぇえぇぇぇえぇぇぇええぇぇぇえぇぇぇええぇぇぇぇえっ!!」
「何だよ」
「オレが流刑にされんの!?」
「おう」
「何で!?」
「おまえごときじゃうちの家族支えていけねーよ。俺が流刑にされてたらやばいだろ」
「そっ、そうだけどっ!」
「俺が仕事休んだら、俺の分の仕事やらなきゃならねーことになるだろうレオンが過労でぶっ倒れるかもしれねーし」
「そっ、そうだけどっ!」
「で、レオンまでぶっ倒れたら他の超一流ハンターに俺やレオンの仕事が回って、絶対いつか逆にやられて死ぬことになんぜ?」
「そっ、そうだけどっ!」
「ちなみにそのうちの1匹はおまえになるよな」
「そっ、そうだけどっ!」
「それにおまえ、俺が罪受けるくらいなら自分が受けるって言ったじゃねーか」
「そっ、そうだけどっ!」
「てか、俺が流刑頑張れよって言ったら、『うん』って言ったー」
「そっ、そ・う・だ・け・どぉぉぉぉおぉぉおおぉぉぉぉおぉぉおぉおっ!!」
と叫ぶシュウを無視し。
リュウが王子に訊く。
「シュウでもいいっすよね。この通り、俺が流刑にされてたら色々やばいんすよ」
「う、うーん…、たしかにな」と、納得する王子。「リュウには舞踏会の警護という重大な仕事もあるしな…。今さらそれを他のハンターに頼むのも不安だ……。…し、しかしなぁ」
「しかし、何すか」
「シュウがカレンも連れて行くとなるとなあ…。カレンが哀れで仕方ないぞ」
「あー、はいはい」とサラが手をあげた。「カレンが行くならアタシも行くー」
「なっ、何ィっ!?」
と、驚愕して声をそろえたのはリュウと王子である。
「ばっ、サラおまえっ、無人島に流刑だぞっ…!?」
「だって親父、兄貴だけじゃカレン守れるか不安でさ」
「サっ、サラ、正気か!?」
「正気です、王子さま。ねえ、レオ兄も一緒に来るよね?」
「当たり前だよ。この子たちだけじゃ不安だからね」
と、レオンがシュウとサラの頭を撫でる。
一方のリュウと王子、相談開始。
「ちょ、ちょっと王子!」
「あ、ああリュウ!」
「む、無人島はやべえ、無人島は!」
「そ、そうだな! どこか別の島を!」
「あ、あと食料持たせてやって!」
「あ、ああもちろんだ! というか食料だけではなく、好きなものを持って行って良いことにするぞ!」
「そ、それから期間は短く!」
「と、当然だ! 美しいレディを2人も長々と流刑になど出来るか!」
と、いうわけで。
リュウと相談を終えたあと、王子がシュウたちに振り返った。
「良いか、シュウ、サラ、レオン。それから今ここにはいないが、カレン。おまえたちは、葉月島の離島へと流刑にする。葉月島から南へ行くとあるところなのだが」
「それは」と、レオンが口を挟んだ。「桂月(かつらづき)村があるところですか?」
「そうだ」リュウが答えた。「桂月村は貧しい村だ。困ってても金がなくてギルドに依頼できねえなんてこともしょっちゅうだろうよ。おまえたち、無料出血大サービスで働いて来い」
「それから」と王子が続ける。「好きな物を持って行って良いことにする。期間は10日間。良いな?」
シュウとサラ、レオンは承諾した。
――と、いうわけで。
翌日――サラ17歳の誕生日に、葉月島本土から南へ800km地点に浮ぶ離島へと流刑にされたシュウとカレン、サラ、レオン。
そこはまるで葉月町の夏のような暑さだった。
大自然の中から、セミの鳴き声も聞こえてくる。
食料から遊ぶものまでたんまりと持ってきた大きなバッグをシュウとレオンに預け、カレンとサラが早速はしゃぎ出す。
「きゃああああああっ! 海綺麗なのですわあああああああああああああああっ!!」
「デジカメ、デジカメっと! カレン、カレン! ポーズ取って、ポーズ! はい、マヨネーズ♪」
シュウとレオンは思う。
(本当にハネムーンのようだ…)
まったくもって流刑にされている気がしなくて、何だか苦笑してしまう2匹。
サラが近くの山を指差して言う。
「ねね、見て見て! 寺があるよ! まずはあそこに行ってみない?」
シュウとレオンが承諾する前に、
「レッツゴォォォォ♪」
と、腕を組んでスキップしながら向かって行っているカレンとサラ。
シュウとレオンは顔を見合わせて笑った。
「ま、いっかレオ兄。まったく罪受けてる気がしねーけどさ」
「ハネムーン楽しもうか」
と、妻の背を追う夫たち。
寺へと続く階段のところへとやって来て、寺を見上げる。
「すげー長い階段だな、オイ。何段あるんだコレ」と目を丸くしたシュウ。「カレン、こっち来い。おまえ途中でバテるぞ」
階段を上っていたカレンを、手招きした。
そしてやって来たカレンを背負って階段を上り始める。
一方のサラは、そんな心配など無用。
「ぬぉぉりゃあぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁぁああぁぁぁぁあっ!!」
と、元気良く階段を駆け上っている。
「ミ、ミニスカでなんちゅーことすんだアイツは……」
と兄として恥ずかしくなってしまうシュウの傍ら、レオンはそんな妻の姿をおかしそうに笑っている。
あっという間に階段を上りきったサラが、のんびり階段を上っているシュウたちに手を振る。
「ねえ、はーやくーっ! ハゲがいるからこの島のことでも訊いてみようよーっ!」
「ハ、ハゲ…?」
と眉を寄せたシュウとカレン、レオン。
シュウが己とレオンに足の速くなる魔法を掛け、階段を駆け上る。
シュウとレオンがやってくると、サラが寺の方を指差した。
「ほら、ハゲ」
「サ、サラ…」
とサラの指す者を見て苦笑したシュウとカレン、レオン。
ハゲではなく、頭を丸めているだけだった。
カレンが続ける。
「尼さんよ、サラ…」
聞いているのか、聞いていないのか。
サラが寺の掃除をしている尼らしき者のところへと向かっていく。
シュウが言う。
「それにしても、めずらしい尼さんだなあ。赤犬の耳生えてるよ」
「そうね」と、同意して頷いたカレン。「レッドドッグの尼さんなんているのね」
「いや、レッドドッグのハーフっぽいね。ていうか、頭丸めてるけど尼さんじゃないかもしれないよ。未成年な感じがするし、修行中の身じゃないかな」
と、レオンが言ったとき。
レッドドッグの耳の生えた尼らしき者に、サラが声をかけた。
「あのう、すみませーん」
「はい?」
と、少し眉を寄せて振り返ったレッドドッグの耳の生えた尼らしき者。
「え」
サラの目が丸くなり、
「げ」
尼らしき者の顔が引きつる。
数秒の沈黙の後。
サラの大爆笑があたりに響き渡った。
「あーーーっはっはっはっはっはっはっはっはっ!! あんたっ…あんたっ……!!」
何事かとシュウたちがサラのところへと駆け寄ると、サラが尼らしき者を指差して叫んだ。
「キャっ、キャロルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥっ!!」
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