第132話 破壊しちゃったんです


 シュウ宅の屋敷の中。
 ジュリの部屋にいるカレンは狼狽していた。

「た、大変だわっ…! 大変なのですわあぁぁぁっ……!」

 と部屋の中でうろうろとしているカレンの顔を、騒ぎですっかり目を覚ましたジュリが覗き込む。

「カレンちゃん? どうしたの?」

「な、なんでもないのよ、ジュリちゃん。さあ、気にしないでおやすみ」

「はい、おやすみなさい」

 と、にこっと笑って再び眠りにつくジュリ。
 規則正しい寝息が聞こえてきたあと、カレンはジュリを起こさぬよう部屋から出た。

 携帯電話を取り出し、リンクに電話を掛ける。

「はいはーい、リンクやけどー」

「も、もしもしリンクさんっ!?」

「どうしたん、カレンちゃん。めっさ慌ててるみたいやけど」

「たっ、大変なのですわあぁぁぁあぁぁぁあっ!!」

「えっ? 何……、ま、まさかおれの親友――リュウの危機なんかあぁぁぁぁぁぁあっ!?」

「そ、そそそ、そんな感じなのですわああぁぁぁぁあぁぁあっ!」

「まーじでぇぇぇええぇぇぇぇええぇぇぇえ!?」

 とリンクの叫びが聞こえてから数秒後。
 リンク一家が瞬間移動でシュウ宅の玄関に現れた。

「リュウ、今おれが行くでえぇぇぇええぇぇぇぇえぇぇぇえっ!!」
 
 
 
 シュウの自宅屋敷の敷地内から、500m離れた森の中。
 シュウが狼狽して絶叫している。

「うっ、うわあああああっ! 待てっ! 待て、リン・ランっ! 兄妹で不倫なんてやべえっ! っていうかカレンに見られたらオレもう生きていけなあああああああああああああああいっ!!」

 リン・ランにより、あっという間にパンツ一丁にされてしまったシュウ。
 男といえど、身の危険を感じて胸元を両腕で隠してしまう。

「ハァハァハァ…! か、隠しちゃダメなのだ兄上えぇぇ……!」

「ハァハァハァ…! み、見せてくださいなのだ兄上えぇぇ……!」

「ハァハァハァ…! ち、父上に比べて色気がないもののぉ……!」

「ハァハァハァ…! ピ、ピチピチボデー溜まらないですなのだぁ……!」

「どっ、どこのオバサンだおまえらはっ……!!」

 と突っ込んだシュウ。
 リン・ランを突き飛ばし、半ば死に物狂いで逃げ出す。
 それを鼻息荒く追うリン・ラン。
 もうリュウ軍だのキラ軍だのどうでも良くなり、シュウとリン・ラン、バトル開始早々に戦線離脱。

 その頃。
 背負っていたユナをリュウに預け、立ち止まって振り返ったレオン。

「キラ! 我に返って! キラ!」

 必死に叫んだが、頭に血が上っているキラの耳には届かない。

「どけ! レオン!」

 とキラがいとも簡単にレオンを突き飛ばし、そのままリュウ目掛けて突進していく。
 マナを背負ったグレルも、レナもそれに着いて行く。

 飛ばされたレオンは、

「はい、キャーッチ♪」

 愛する妻――サラの腕の中へ。
 サラが支えきれず後方に倒れる。

「サ、サラ!? 大丈夫!?」

 とレオンがサラを跨いで四つん這いになった。

「へーきへーき」と笑ったサラ。「ヘイヘイ、そこの優男サン、アタシと月明かりの下でイイコトしなぁーい?」

 と、レオンの首に腕を回す。

「ちょ、ちょっとサラ? 僕たちは今、リュウとキラの争いの助手…いや、リュウとキラを止めるためにっ……!」

「なんか愛するダーリンに飛び込まれてきたら、一瞬にしてどうでも良くなっちゃったっていうかー」

 あはは、と笑い、サラがレオンにキスする。

「ど、どうでも良いって、リュウとキラの喧嘩は止めないとマズイことになるよ!?」

「大丈夫だよ。ママは本気でも、親父はママ相手に本気の喧嘩できないもん。そりゃ、親父まで本気になっちゃったら葉月島消滅の危機かもしれないけどさ?」

「で、でも――」

「いーから、いーから。親父たちには後で追いつこうよ、レオ兄。それより今は生でイトナミ楽しむアルヨ」

「ま、まったくもう……。1回だけだからね?」

 というわけで、サラ・レオンも戦線離脱。

 夜の森の中でサラとレオンがイトナミを開始した頃。
 ミラとユナを腕に抱えて走るリュウを追う、鬼の形相のキラ。
 そのあとをマナを背負って走るグレルと、置いていかれないよう一生懸命着いて行っているレナ。

 途中、マナが口を開いた。

「グレルおじさん、止まって…」

「お?」と、背のマナに顔を向けたグレル。「ストップだぜーっと」

 急停止したが故に、後ろを駆けてきたレナが激突。

「わあっ!!」と尻餅をつき、レナが眉を吊り上げる。「もうっ、どうしたの!?」

 マナがグレルの背から降りて言う。

「最高級の薬の材料みーつけ…」

「おお」

 と声を高くしたレナとグレル。

「すごい、天然じゃん! これは良い薬できるよね!」

「持って帰らなきゃだぞーっと♪」

 と薬の材料を摘み始め。
 マナとレナ、グレル、戦線離脱。

 まだ全力疾走しているのはリュウとキラ。
 リュウの左腕にはミラ、右腕にはユナが抱かれている。

 リュウの後方に小さく映るキラに、ミラが必死に叫ぶ。

「ママっ! ママもう止めてっ! みんな戦線離脱したわっ!」

 キラはまるで止まる気配がない。
 よって、眉を吊り上げて続けるミラ。

「止めてってば、ママっ! 聞こえないの!? パパを傷つけないで、パパをっ! そう……、私のパパをっ!!」

 一言多かった。

 よって、さらにキラは怒り狂ってしまい。

「ぬぅおぉぉうあぁぁぁりゃあぁぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁあっ!!」

 爪で伐った大木を、逃げるリュウに向かってぶん投げた。

 それをリュウがひょいと避けて走り続ける。
 ユナが溜まらず泣き出した。

「パ、パパパパパパパパパパっ!! マっ、ママ怖いよおぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉおぉおおっ!!」

 走りながら木を避けつつ、一瞬ちらりと後方に顔を向けたリュウ。

(おう…、パパも怖い)

 同感。

 もはや殺気ムンムン。

(色気もムンムン(謎))

 娘を両腕に抱いているが故に抜刀できないこの状態で、あのキラを相手にするのはリュウとてきつい。
 このまま追いつかれたら、ミラとユナごと切り裂かれてしまう。

 だが、

(ぎりぎり辿り着けるか、戦闘に適した場所に)

 自宅屋敷の裏庭は広いが、リュウとキラの戦闘には狭すぎて屋敷破壊は免れない。
 森の中は木が邪魔だし、夜でも多くの人々が行き交う葉月町は以ての外。

 よって、リュウが選んだ場所は。

「ヒっ、ヒマワリ城!?」

 と、森を抜けて高い崖を駆け上り、辿り着いたその場所を見て、目を丸くしたミラとユナ。

 正しくはヒマワリ城の庭。
 さすがは城の庭なだけあって、無意味に思えるほど広い。
 リュウの屋敷の裏庭の20倍はあろうか広さだ。

「だっ、誰だおまえたちはっ!!」

 と仰天した警備兵が寄ってきて、武器を構える。
 が、リュウの姿を見てぱちぱちと瞬きをした。

「って、リュウさん?」

「警備ご苦労。ちと庭借りっから下がってろ」

「か、借りるって一体――」

「うるせーな、単なる夫婦喧嘩だよ。早くすっこんでろ。おまえキラの爪に真っ二つにされんぞ」

 それを聞いた警備兵。
 慌てて逃げていき、王に知らせに行く。

 リュウが地にミラとユナを降ろすと、ミラとユナはすぐさま安全だろうところまで駆けて行く。

「ああもう、ミラ姉ちゃん、早く!」

「ま、待ってよ、ユナっ…!」

 家族の中で一番身体能力の優れていないミラ。
 ヒマワリ城の庭の角に逃げ込んだユナに、やっとの思いで追いつく。

 息を切らしながら振り返ると、リュウとキラの戦闘が始まっていた。
 
 
 
 リンクはリーナをカレンに預けると、ミーナと共にシュウ宅の外へと出た。
 裏庭へと向かい、辺りをきょろきょろと見渡す。

 すぐに分かった、リュウたちが駆けて行った方向が。
 屋敷の敷地外にある森の木が切り倒され、道が出来ている。

「この道、キラが爪でやったっぽいぞリンク」

「せやな。それより、嫌な予感すんで……」

「む?」

 と、ミーナがリンクの顔を覗き込むと、リンクが続けた。

「リュウ、屋敷を壊さんようにと戦いに向いてる場所へと向かったと思うんやけど…」

「だろうな」

「この森抜けたところにある崖上ると――」

「おお、ヒマワリ城だぞ!」

 とミーナが言ったとき、リンクの携帯電話が鳴った。
 誰からか確認したリンク、嫌な予感が的中した気がして苦笑した。

「も、もしもし王子でっかー?」

「おい、リンクっ!! 城の庭が騒がしいと思って庭を見たら、リュウとキラが戦っているではないかっ!!」

 リンクの嫌な予感は的中してしまい。
 声を裏返しながら、慌てて叫んだ。

「お、王子っ、城の皆はんと共に城の外へぇぇぇえぇぇぇぇぇぇえぇぇぇえっ!!」
 
 
 
 ヒマワリ城の庭。
 キラがリュウに向かって爪を振り回している。

「この浮気者っ!! 万年発情期っ!! 女なら誰でも良いと言うのかおまえはあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあっ!!」

 リュウは剣でキラの爪を防御しながら言う。

「落ち着け、キラ。誤解だって言ってんだろ」

「私というものがありながらあぁぁぁあぁぁぁあっ!!」

 リュウがいくら弁解しようと、まるで聞こえていないようなキラ。
 リュウの周りに纏わりつき、矢鱈滅多に爪を振るっている。
 その爪がときどきリュウの身体を掠めた。

「ったく…、俺の話を聞け!」

 とリュウが剣を横に振るう。
 キラが避けられる程度に、軽く。

 その際、起こった風が城を直撃しているのだが、そのことにリュウもキラも気付いていなかった。

 案の定、機敏なキラが刃を避け後方に宙返り。
 たん、と身軽な音を立てて地に足を着いたキラ。

 リュウの目が丸くなる。

(こ、この乳の揺れ方は風呂上り後のノーブラ…!)

 一方のキラ。

「リュウ、おまえという奴はぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあっ!!」

 と泣き叫びながら、再びリュウに飛び掛かる。

(ああ…、よく揺れる……)

 なんて剣を振るってキラと戦いつつも、にやけてしまうリュウ。

「リュウ、おまえの妻は私だけだっ…!」

(泣き顔も可愛いな、俺の黒猫…)

 恍惚とし。

「リュウ、おまえのペットは私だけだっ…!」

(おお、今日エロパンツか…)

 興奮し始め。

「リュウ、おまえはっ…、おまえはっ……!!」

(ああ、待ってくれ尻っ…!)

 キラが視界から消えぬよう、必死に目で追い。

「私だけを見ていれば良いのだあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁあっ!!」

(触らせてくれ!)

 ガキンっ!

 とキラの鋭い爪を剣で切り捨て。

(乳ぃぃぃぃいぃぃぃぃいいぃぃぃぃいぃぃいぃぃぃぃいぃぃぃぃぃい!!)

 溜まらずキラを押し倒した。

「ふにゃあっ!」

 と、芝生の上に背を打ち付けられて声をあげたキラ。

「勝負ありだぜ、キラ。おとなしくしろ」

 と言いながら、キラの胸をしっかりと触っているリュウ。
 キラの顔が引きつる。

「リュウ、お、おまえという奴は……」

「何だ、俺の可愛い黒猫」

「どうしてそう――って、コっ、コラっ! 服の中に手を入れるなっ!!」

「ああ、ノーブラ…」

「揉むなっ!!」

「さて一発っと」

「脱がすなあぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあっ!!」

「うるせーな、おとなしくしろよ」

「こっ、こんなところで出来るわけがないではないかっ!」

「大丈夫だ安心しろ、キラ」と微笑んだリュウ。「俺、ゴム常備してるんだぜ?」

 自慢げに言った。

「ゴっ、ゴムの有り無しなど心配してないわぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあっ!!」

 とキラが叫んだ直後のこと。

 ズドォォォン…

 という音と共に地響きが。

「ん?」

 と音をした方向――ヒマワリ城に顔を向けたリュウとキラ。
 眉を寄せた。

 城の一部が壊れて地に落下している。

「なあ、リュウ? 何で城が突然壊れたのだ?」

「……(あれ?)」

「しかも、あちこち今にも崩れそうになってないか?」

「……(もしかして…)」

「む? いつの間にか城の者たちが宝を抱えて外に出てるぞ。って、何故かミーナが瞬間移動で手伝ってるみたいだぞ」

「……(俺の…)」

「どうやら全員外に出たみたいだな。…って、お? おっ、おっ、おっ、おっ、城がっ! おっ…おおおおおおおおおおおおおーーーっ!!?」

「……(剣圧のせいか?)」

 今頃気付いても遅い。

 リュウが剣を振るう度に起こった風で、ダメージを食らってしまったヒマワリ城。
 もろもろと崩れ始め、

 ズドドドドドドォォォォォォォォォンっ……!!

 と物凄い音を立てて全壊してしまった。

(や、やべえ……)
 
 
 
 
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