第131話 骨肉争いに発展し……
シュウ宅の2階。
元カレンの部屋。
破壊されたドアと窓。
ガラスが床に飛び散っている。
「切り裂いてくれるわあぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁぁああぁぁぁああぁぁぁぁああっ!!」
とキラがリュウに飛び掛った。
キラの爪で頬に切り傷が出来たリュウ。
「ご、誤解だキラ!」
後方に飛び退り、窓から庭へと飛び降りる。
その際、仰向けに倒れているところをリュウに踏ん付けられたシュウ。
「グエェェっ!?」
「何が誤解なのだ!」
と続いて飛び降りてきたキラにも踏ん付けられる。
「グエェェっ!」
そんなことに気付いているのか気付いていないのか。
リュウとキラはシュウの頭上で言い争っている。
シュウの頭から向かって左側にリュウ、右側にキラ。
「俺がおまえ以外の女とどうこうするわけねーだろ!?」
「ふん、どうだかな。おい、カレン」と顔を上げ、2階の窓からおろおろとしているカレンに顔を向けたキラ。「おまえ、今日のパンツはピンクのヒモか」
「えっ!?」
と声を裏返し、慌てて寝巻きの中を覗いて確認するカレン。
リュウは安堵する。
(カレンのパンツがピンクのヒモだなんて、適当に言ったことだしな)
これでキラの誤解が解ける。
と、思ったのだが。
「ええとぉ…、は、はい、そうですわ」
とのカレンの返答に、リュウ驚愕。
「ハっ…!? カレンおま……!!」
「ほ、本当にピンクのヒモでしたわ、お義父さま」
「だっ、だったら気を利かせて嘘吐きやがれ!!」
「きゃあああ、ごめんなさいっ! お義母さま落ち着いてくださいっ! あたくし、よく見たらピンクのTバックゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥっ!!」
と焦って言い直しても、もう遅かった。
「貴様という奴はっ…! 貴様という奴はあぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあっ!!」
と再びリュウに飛び掛るキラ。
リュウはキラの攻撃を避けながら、必死に弁解する。
その傍ら、仰向けに倒れているシュウをレオンが慌てて遠くへと引きずっていく。
「シュウ、大丈夫!?」
「だ、大丈夫…!」と踏まれた腹に治癒魔法をかけまくり、シュウは何とか起き上がる。「そ、それよりやべーことになっちまったっ……!!」
「だねえ」
とサラとレオンが苦笑したとき、あまりの騒ぎにシュウの妹たちとグレルが裏庭へとやって来た。
「パ、パパとママ、どうしたのお兄ちゃん?」
と戸惑いながら訊いたミラ。
シュウが答える前に、突然絶叫した。
「って、きゃああああああああああっ!! パパの綺麗なお顔に傷がああぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁぁあっ!!」
とリュウのところへと駆けて行ったミラ。
キラがはっとして後方に飛び退る。
「あっ、危ないではないかミラっ! 離れていろ!」
キラの言葉をまるで聞かず、ミラが泣きながらリュウの切れた頬に治癒魔法を掛ける。
「パパっ…! パパっ、大丈夫っ!?」
「ああ、大丈夫だミラ。こんなの掠り傷だぜ」
「良かったっ…!」
「ほら、泣くな」
リュウに抱きつくミラと、ミラを抱き締めるリュウ。
(あんたら間が悪すぎるっ……!)
シュウとサラ、レオンの顔が恐怖で強張る。
見つめる先はキラ。
タダでさえリュウの浮気を疑って気が立っていたというのに。
日々リュウに抱かれることを夢見る超・ファザコンのミラと目の前でいちゃつかれたとなっちゃあ、怒りは治まるどころか増大し。
おまけに、
「ママひどいわっ! パパにこんなことするなんてっ…! パパのこと大切にしないなら、私がパパもらっちゃうからねっ!!」
なんてミラが言いやがり。
ブチブチブチィっ……!!
とキラの中で何かが切れる音がし。
「ぬうぅぅぅおぉぉぉぉりゃあぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁああぁぁぁあっ!!」
ズガンっ!!
とキラ怒りの拳が地に炸裂。
キラの拳からリュウ目掛けて地割れが起きて行く。
ミラを腕に抱いて避けたリュウ。
家の敷地を通り越し、森の中まで続いていった深い地割れを見つめたあと、顔を引きつらせながらキラを見る。
今絶対、地割れの中にこのリュウを落とそうとした。
「キラ、おま……。マ、マジでブチ切れてねえ?」
「貴様なんぞ、地割れの中にコンクリート詰めにしてくれるわあぁぁぁぁああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁあっ!!」
完全に頭に血が上ったキラ。
リュウを睨みつける大きな黄金の瞳からは、涙が次から次へと零れている。
(ああ、俺すげー愛されてるな…)
なんて喜んでいる場合ではない。
キラの涙。
それは時に骨肉の争いを巻き起こす。
「落ち着け、キ――」
落ち着け、キラ。
と言おうとしたリュウの言葉を、サラの絶叫が遮った。
「マっ、ママァァァァァァァァァァァァァァっ!!」とサラがキラに駆け寄り、キラの涙を必死に袖で拭う。「ママ大丈夫っ!? ママっ!? ……こぉぉんのぉぉぉぉぉ」
と、リュウを捕らえるサラの鋭い瞳。
「バカ親父があぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁっ!!」
「お、おい、サラっ!!」
とリュウに飛びかかろうとするサラをシュウが押さえつけたものの、大変なことになった。
(ああ、もうダメだ)
とシュウは思った。
サラに続いてリン・ランがブチ切れ、マナとレナもブチ切れる。
「父上のブワァァァカァァァァァァァァァァァァァァァァっ!!」
「パパ、許さない…!」
「ママを泣かせるなああぁぁぁぁあああぁぁぁぁあぁぁあっ!!」
リン・ランは水魔法、マナは大地魔法、レナは光魔法をリュウにぶつける。
それはもちろんリュウにとって痛くも痒くもない。
が、心配したユナがリュウのところへと駆けて行って、キラの周りにいる一同に炎魔法で反撃する。
「パパだって反省してるよ! もう止めて!!」
「そうだぜ、おまえら」とユナに続いてリュウを庇いに行ったグレル。「オレの可愛い弟子をあんまり苛めるんじゃねえ!!」
と、大きな声でビシッと言ってやった。
のだが。
「グレルおじさん…」
「ん? 何だ、マナ」
「こっちの味方して…」
「分かったぞーっと♪」
あっさりとキラ側へと向かった。
引きつるリュウの顔。
「し、師匠!?」
「未来の嫁さんに誘われちまったから、オレキラの方に行くぞーっと♪」
「なっ――」
「じゃーな、リュウ♪」
「さぁーて、アタシも」と、シュウの腹に肘打ちし、キラのところへと向かっていくサラ。「ママ軍っと」
「ぐ、軍って…オイっ……!」
シュウは狼狽しながらリュウの方に集まる一同と、キラの方に集まる一同を交互に見た。
すっかりリュウ軍とキラ軍に分かれ、戦う気満々になってしまっている。
「レ、レオ兄っ、どうしようっ…!」
とシュウがレオンの顔を見ると、レオンは苦笑していた。
「僕たちはどっちの味方っていうわけじゃないけど…、とりあえずリュウ側に行こう。キラたちの興奮を止めるために」そう言い、レオンが2階の窓から顔を出しているカレンに顔を向けた。「カレンちゃん、悪いけどリュウとシュウ、僕の武器を持って来てくれないかな。キラの爪やグレルを相手にするのに、丸腰じゃきついからね」
「あとアタシの武器もね」
と、サラ。
カレンはサラとレオンの顔を交互に見たあと、慌てたように言われた武器を取りに駆けて行った。
シュウとリュウ、サラ、レオンの武器を抱え、その重みにふらふらとよろけながら裏庭へと持っていく。
そしてカレンが武器を渡し終えると、シュウがすぐにカレンを後方に下がらせた。
「カレン、おまえは屋敷の中でジュリと待ってろ」
「え、ええ、分かったのですわっ…!」
と、屋敷の中へと駆けて行ったカレン。
一方、沈黙の流れている裏庭。
リュウ軍――リュウとシュウ、ミラ、ユナ、レオン。
キラ軍――キラとサラ、リン・ラン、マナ、レナ、グレル。
10mほど距離を開け、向き合っていた。
妹たちはともかく、キラやグレルを見てたじろいでしまうシュウ。
リュウが小声で言う。
「まずはこの場から離れるぞ。屋敷破壊するわけにはいかねーからな」
と、リュウがこっそりと自軍の一同にまとめて足の速くなる魔法をかけた。
こくんと頷いたリュウ軍一同。
リュウがミラを左腕に抱っこし、レオンが背にユナをおんぶする。
「あっ、逃げる気だ!」
とサラが声を上げた瞬間、リュウとレオンが敷地の外に広がる森目掛けて駆け出した。
「あああっ、ちょっと待ってえぇぇぇえぇぇぇえっ!!」
とシュウも慌てて後を追いかける。
リュウの足の速くなる魔法は、魔力が高い分えらく俊足になる。
「オレ、足はええええええええええええええええっ!!」
なんて仰天するシュウ。
(これならいくら母さんやグレルおじさんでも追いつけねーよな)
と安心したのは一瞬だけ。
はっとする。
(ま、待て! オレ、足の速くなる魔法何で覚えたっけ!?)
答えは、双子や三つ子が通っている魔法学校の魔法書。
(ってことはつまり……!?)
恐る恐る振り返ったシュウ。
絶叫する。
「ぎっ、ぎゃあああああああああああああああああああああっ!!」
リュウよりもずっと魔力が弱いとはいえ、向こうにだって足の速くなる魔法はある。
邪魔な木を爪で切り倒しながら駆けて来るキラと、邪魔な木を体当たりで突き抜けて駆けて来るグレルの姿が、だんだんとシュウの視界に映ってきた。
ついでにグレルの背にはマナ。
「おっ、親父っ! 親父ぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃいぃぃぃいっ!!」
「うるせーな、何だよ」
とシュウよりもずっと前を走っていたリュウが振り返る。
「かっ、母さんとバケモノ来たあぁぁぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
「まだ追いつかれんなよ」
「そっ、そんなこと言ったってえぇぇぇええぇぇぇえええぇぇぇえっ!! うああっ、母さん鬼の形相で来たあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ」
「おい、上」
「あぁぁああぁぁぁぁあ――って、上?」と上を見上げたシュウ。「げっ!?」
と、顔を引きつらせて思わず立ち止まった。
そこにはマナが召喚しただろう隕石さんこんばんは。
ズドォォォン…!
と落ちてきた隕石を腕で支えようとしたシュウだったが、
「――グエェェェ……!!」
仰向けの形で潰された。
その間にシュウの脇を通り過ぎていくキラ軍。
「兄ちゃん、ちょっとじっとしてて…」
なんてマナの声が聞こえ。
「オレ置いてけぼりぃぃぃぃぃぃ!?」とシュウが思っていたら、少しして消えてくれた隕石。「おお、サンキュ、マナ!」
と、起き上がろうとしたシュウの身体に、
ドサっ…!
と再び圧し掛かってきたものは。
「ハァハァハァっ…! 兄上えぇぇぇえぇぇぇぇえ……!」
リン・ランだった。
鼻息の荒い双子に、シュウの顔が引きつる。
「お、おい、おまえたち…!? は、走ったが故にハァハァしてんだよな……!?」
「も、もちろんですなのだ、兄上えぇぇっ…!」
「カ、カレンちゃんがいない今が不倫のチャンスだとか思ってないですなのだ、兄上えぇぇっ…!」
嘘こけ。
心の中で突っ込んだシュウ。
キラを継いで夜目が利くことと、月明かりがとても明るいことでよく見えた。
リン・ランの異常なまでに興奮している顔が。
「ハァハァハァ…! カ、カレンちゃんはいないな、ラン……!?」
「ハァハァハァ…! だ、誰も見てないな、リン……!?」
「ま、まままままま待て、おまえたち!」シュウ、狼狽。「何か違うぞ…!? オレたちは今、親父VS母さんの――」
「よし」と、声を揃え、シュウの服に手を掛けたリン・ラン。「兄上の身包み…!」
「おい、ちょ――」
「剥がすのだああああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁあっ!!」
あっという間に衣類をぽいぽいと脱がされていくシュウ。
「ノっ、ノオォォォォォオォォォォォォオオォォォォォオオォォォォォオっ!!」
絶叫した。
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