第125話 長男&カレン、次女&レオンの結婚式


 ――5月。
 本日シュウ、18歳の誕生日。
 そして本日、シュウとカレン、サラとレオンの結婚式だ。

 教会の中、参列者が待っている。
 祭壇に向かって左側にカレンの家族(父除く)、右側にシュウの家族(リュウ除く)とリンク一家、ミヅキ、王子。
 グレルは牧師役。

 王子が来たとなれば、カレンの家族はえらく緊張し。

 王子は王子で、顔が強張っている。

(き、来てしまった来てしまった…! サラにカレンという美少女に招待状をもらってしまったが故に、断れず来てしまったぞ…! キ、キラの顔が見れん…! キラはマリアを飼った私をどう思っているのだろうか……!)

 と、恐る恐るとキラを見る王子。

(ああ……、相変わらずこの世に並ぶ者がいないほど美しいな、キラ)

 顔が恍惚とした。

(何故、リュウなんぞの嫁になってしまったのだキラ。あの男が相手では色々と大変であろうに、あの男では。…って、そういえばあの男…リュウはどこだ?)

 と教会の中をきょろきょろと見回す王子。

(ああ、そうか。新婦のサラのエスコートをしなければならないからな。教会の外にいるのか。あれほど可愛がっている娘を嫁にだなんて、どんな顔をして出てくるのか楽しみだな)

 と王子が小さく笑ったとき。

 牧師役のグレルが欠伸をした。
 祭壇から教会の出入り口に向かって大きな声で言う。

「おぉーい、ヒマだぞーい。そろそろ新郎入場しろーい」

 教会の扉から、新郎であるシュウとレオンが顔を覗かせた。
 さっそく滅茶苦茶な結婚式に、苦笑しながら祭壇の前まで歩いてくる。

「兄上かっこいいですなのだあぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁあっ!!」

 なんて、シュウはリン・ランの黄色い声とフラッシュを浴びながら。

「良かったなシュウ、それからレオン」

 と鼻をフンと鳴らした王子。

「とか言ってくださってる割には、機嫌悪そうですね王子」

「当たり前ではないか、レオン! おまえたち揃いも揃って美しいレディを嫁にもらうとは…! 羨ましいではないか!!」

「は、はあ、スミマセン…」

 レオンと王子の傍ら。
 ヒースがシュウに手を振っている。

「シュウくん、おひさしブリーフ」

「お、お久しぶりです(相変わらずだなこの人)」

「私も参列して良かったかな」

「あ…当たり前田のクラッカーっ…!」

「おい、シュウ。それはどこの言葉だ」

 と王子に突っ込まれてシュウが赤面している頃。

 教会の扉の外では、入場前の新婦であるカレンとサラ、その父であるリュウとカレン父が待っていた。
 カレンもサラも、カレン父もリュウから遠巻きになってしまう。

(暗っ……!)

 サラの結婚式が近づくにつれ、重く沈んでいったリュウ。
 結婚式である今日、そのオーラときたら近寄りたくないほど暗い。
 3日前から眠っていないというような顔をしている。

「ちょ、ちょっと親父?」

「何だ、サラ…」

「そんなんでちゃんとアタシのエスコートできるわけ?」

「おう…。左足を出して左足を戻し、右足を出して右足を戻――」

「進まねーよ」

 ドスッ

 とリュウの胸にチョップをかましたあと、サラはリュウの腕を取った。

「ほら、しっかりしてよ親父。もうすぐ入場だよ。左足を出して右足を揃え、右足を出して左足を揃える。これの繰り返しだからね?」

「おう…」

 と、肘に力を入れ、離さんと言わんばかりに脇腹にサラの手を挟むリュウ。
 サラが溜め息を吐いた。

「しょっちゅう顔見せに行くってば…」

「……」

 リュウの顔が晴れぬまま、新婦入場のときがやってきた。
 扉が開き、結婚行進曲が流れる。

 参列者の拍手の中、カレンとサラが父親にエスコートされながらゆっくりと向かっていく。
 祭壇の前で待っている新郎のところへ。

 愛おしそうにサラを見つめて微笑んでいるレオン。

 鼻に詰め込んだティッシュを赤く染めるシュウ。
 途中、一度リン・ランにティッシュを変えてもらった。

 頬を染める王子。

「お…おおお…! 美しいっ…! 美しいぞサラ、カレン……! というか」と、顔を引きつらせる。「リュ…リュウおまえ大丈夫か……」

 大切な娘を取られたリュウがどんな顔で出てくるか楽しみだった王子だったが、想像以上に暗すぎて同情してしまう。

 祭壇の前へとやって来たカレンの手を、シュウが取る。

「カレン…(か、可愛すぎる…!)」

「シュウ…(鼻のティッシュなんとかして…)」

 その傍ら。
 祭壇の前へとやって来たサラの手を、

「お・や・じ……!?」

 ググググググっ…!

 とリュウが脇腹に挟んで離さない。

「離してよ…!?」

「抜いていいぜ」

「抜けないっつの…!」

「よ、よし、サラ。抜けねえのは嫁に行きたくねえ証拠だ。婚姻届まだ出してねーし、今からでも――」

「リュウ、いい加減諦めろ」

 と深く溜め息を吐いたキラが、リュウの脇腹からサラの手を離させた。
 レオンが苦笑しながらサラの手を取り、牧師役のグレルが咳払いをした。

「うおっほん! んじゃ、始めるぞーっと♪ 何か普通は変な歌(賛美歌)を歌って聖書を読むらしいけど、オレ知らねーから省略だぞーっと♪」

 新郎新婦、苦笑。
 グレルが牧師となれば、これくらいのことは想像できたが。

「汝シュウは…(中略)…誓えよーっと♪」

「え?(め、命令形かよ…) も、もちろん誓います」

「汝カレンは…(中略)…誓えよーっと♪」

「ち、誓いますわ」

「汝レオンは…(中略)…誓えよーっと♪」

「誓います。グレル、そこは疑問系で…」

「ん? 汝サラは…(中略)…誓えよーっと?」

「誓うぞーっと♪」

 と、新郎新婦が全員誓ったあとは指輪交換。
 グレルが危うく指輪を曲げかけるが、何とか無事に済ませた。

 そのあとは、

「んじゃ、誓いの接吻かませよーっと♪ ぶちゅーーーっとな♪」

「は、はははははははいっ!」とカチンコチンになって手を上げたシュウ。「オ、オオオ、オトーサン、オジーサン、オニーサン、ししししししししし失礼しましゅっ!!」

 カレンのベールをめくり、目を閉じて待つカレンの唇に震えながらキスをした。

 その傍ら。
 誓いのキスと聞いた瞬間に、片足の靴を半分脱いだリュウ。

「え…えと、失礼します」

 とリュウに向かって苦笑したレオンが、サラの唇にキスした瞬間、

 すっっっぱーーーーーん!!

 とレオンの後頭部に靴を投げつけた。

「――…っ……!?」

 痛みに頭を押さえるレオン。
 サラが声をあげる。

「わっ、わあああぁぁぁああぁぁあ!? レオ兄、大丈夫!? ちょ、ちょっと親父!! 何考えてんの!?」

「ハ…ハエ止まってた」

 と言って靴を履きなおしながら、フンと鼻を鳴らして顔を逸らすリュウ。
 キラが再び深い溜め息を吐く。

「いい加減にするのだ、リュウ。次私の可愛い弟にそんなことしたら、私は本気で怒るからな」

「……」

 ぎゅっと奥歯を噛み締めたリュウ。
 やり直したサラとレオンのキスは見つめていられなかった。

 グレルがぽりぽりとコメカミの辺りを指で掻きながら言う。

「えーと、次は何すんだ? 新郎新婦退場か?」

「ああー! ちょっと待って!」とサラ。「ここで新婦から両親への手紙ターイム!」

 えっ?

 と、驚いた顔になるリュウとキラ、カレンの両親。
 そんなことは聞かされていなかった。

 カレンが微笑んで続ける。

「披露宴をやらないから、ここで感謝の気持ちをお父さまお母さまに伝えようっていうことにしたのですわ。では、まずはあたくしから」

 と、カレンが両親への手紙を読み始める。
 思わずカレン父が涙をぽろりと零す。

 続いては、サラの番。
 動揺しているようなリュウの顔を見て、サラが微笑んだ。
 手紙を取り出し、リュウとキラに向かって読み上げる。

「大好きな親父とママへ」

 もうこの瞬間から、目頭が熱くなってしまうリュウ。

(サラ…!)

 と拳を握り締める。

「今まで約17年間、ありがとうございました」

(嫌だ…!)

「アタシはたくさん親不孝をしちゃったね。特に親父には反抗ばかりでした」

(嫌だ、嫌だ、嫌だ…!)

「それでも大切に育ててくれてありがとう。素直になれなかったけど、本当はずっと親父のこと好きだったよ」

 サラの言葉を聞きながら、キラがちらりと傍らにいるリュウの顔を見上げる。

「ハンカチいるか、リュウ?」

「な、泣いてねえっ…!」

 と言いながら、零れてきた一粒の涙を腕で拭うリュウ。
   そんなリュウを見ながら、サラが続ける。

「アタシは今日からレオ兄と生きていくけど、親父とママの娘で、兄貴やお姉ちゃんの妹、リン・ラン、ユナ・マナ・レナ、ジュリの姉であることには変わりません。大好きな親父とママが作ったこの温かい家庭を手本に、アタシもレオ兄と温かい家庭を作っていきたいと思います。これからは毎日会えるというわけではないけど、今からでも親孝行をたくさんしていきたと思ってます。サラはいつどこにいたって、親父とママのことを想ってるよ」

 リュウ、サラに背を向けて号泣。
 キラの手からハンカチを取って涙を拭きまくる。

(やっぱり嫁にやりたくねえ! やりたくねえ! やりたくねえ! 絶対やりたくねえ!)

 もちろん感動もあるが、そんな気持ちの強いリュウ。

「最後にもう一度。親父、ママ…。今まで大切に育ててくれて、本当にありがとうございました。そして、これからもよろしくね」

 そしてサラからリュウ・キラへの手紙タイムは終わり。

 新郎新婦、腕を組んでバージンロードを歩き、退場。
 これから外でブーケ・トスでもしようかときのこと。

「待て!!」

 とリュウが叫んだ。
 一同がリュウに振り返ると、リュウがレオンの胸倉を掴んだところだった。

「リュウ!?」

「親父っ!?」

「パパ!?」

「父上!?」

「リュウさん!?」

 と一同が騒然としてしまう中。

 キラがもう一度深い溜め息を吐いた。
 レオンの胸倉を掴んでいるリュウの腕に、手を乗せる。

「やめるのだ、リュウ。やっぱりサラの結婚は取り止めということには出来ないぞ?」

「…と…取り止めにはしねえ、取り止めにはっ……!」

「じゃあ、華の新郎の顔面でも殴り飛ばす気か? さっきも言ったが、次そんなことをレオンにしたら怒るぞ、私は」

「な、殴らねえよ…」

「じゃあ、どうする気なのだ」

 とキラが訊き、一同がハラハラとしてリュウを見つめる。

 そしてその注目を浴びているリュウは、携帯電話を取り出した。
 とあるところに電話を掛ける。

「あー、もしもし。葉月島ギルド・ギルド長のリュウすけど。あんたうちのサラとレオンの家建築中の建築家っすよねえ」

 何をする気なのかと、眉を寄せる一同。

「今すぐその家破壊して」

 とのリュウの言葉に、驚愕するしかない。

「――んなっ……!!?」

「え? 急いで作ってほしいって言われたからもう完成間近? 気にすんな、この俺の命令だ。全部破壊しろ」

 一同が慌てて止めようとする中、

「んじゃよろしく」

 リュウが電話を切った。

「なっ、何考えてんのさ親父ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!? 親父がそんなこと言っちゃったら、本当に壊しちゃうじゃああぁぁぁああああんっ!!」

 とぼかぼかと殴りかかってくるサラも、ぎゃあぎゃあと騒いでいる一同も無視し。
 リュウは再びレオンの胸倉を掴んだ。

「おい、レオン」

「な、何、リュウ」

  「俺は心優しい男だから、サラと結婚するなとは言わねえ」

「いや、心優しかったら出来上がり掛けの家を破壊しな――」

「だがな、てめえは……!」

 とレオンの言葉を遮ったリュウ。
 大きく息を吸い込んで絶叫した。

「てめえは、婿養子だああああぁぁぁああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあ!!」

 ――!!?
 
 
 
 と、いうわけで。
 翌日、サラの部屋へと運び込まれてくる、婿養子となったレオンの荷物。

 まとめていた自分の荷物もダンボールの中から再び出し、サラがぷんすかと怒っている。

「マジもう信じらんない、親父の奴っ!!」

「ま、まあまあ、サラ」

「何? レオ兄は腹立たないわけ!?」

「僕は別に婿養子でも構わないしさ」

「でもさあ、家まで壊しちゃうなんて最低だよ! やっぱり最悪だ、親父の奴!!」

「そういうこと言わないの、サラ。リュウはサラと離れて暮らすことが出来ないほど、サラが可愛いんだよ。それに嫁にやるより婿養子をもらった方が、気分的に楽なんだろうね」

「だからって――」

 レオンがサラの口塞いだ。
 戸口の方を見る。

 少し開いているドアの外に感じる気配。
 サラがどすどすと歩いて行き、ドアを蹴り開けた。

「立ち聞きしてんなっつの、このバカ親父」

「…と…通りかかっただけだ」

 と、ドアの後ろに立っているリュウ。
 サラがドアの後ろに顔をやると、リュウがブーケを2つ持ちながら立っていた。
 昨日の結婚式でのブーケ・トスの際、これ以上娘を結婚させまいと、誰よりも高くジャンプして奪い取ったものだ。

「ブーケ持って何してんの」

「も、持ってないと他の娘が持って行っちまう」

「枯れるまで持ってる気?」

「おう」

 サラが呆れて溜め息を吐いた。

「邪魔。さっさとどっか行って」

「……」

 1年前のように冷たくなってしまったサラの態度に、リュウが落ち込んだ様子で階段へと向かっていく。
 サラに最低と言われ、最悪と言われ、バカと言われ、邪魔と言われ、大ダメージを食らったらしいその身体は今にも倒れそうだった。
 大きな背のはずが、小さく見えてしまう。

(まったくもう、アタシの親父は……)

 と、もう一度溜め息を吐いたサラ。

「親父」

 と、リュウを呼び止めた。
 リュウが恐る恐るというように振り返る。

「親父って本当、自分勝手だよね」

「…わ…悪い……」

 と俯いたリュウ。

「…でもま、結婚許してくれてありがと」

 そんなサラの言葉に顔をあげた。

「この賑やかな家庭から離れて暮らすのもちょっと寂しいかなって思ってたし、ここにはカレンもいることだし……、いいよもう。でもその代わり、新婚生活を邪魔するようなことはしないでよね?」

「…お、おうっ……!」

 とリュウの顔がぱっと明るくなったときのこと。

「おぉーい、リュウ」

 と1階からグレルの声。
 リュウが顔を向けると、グレルがダンボールを持って玄関に立っていた。

「あれ、師匠。今日仕事大丈夫なんすか」

「おう、引越しだから休み取った。これ1階に運ぶなー」

「いや、レオンはサラと一緒の部屋だから2階に運んで」

「そんな無粋なことできねーぞーっと♪」

「は…?」

 リュウは眉を寄せた。
 サラが言う。

「何、親父…。分かってたんじゃないの?」

「は?」

 と一度サラに振り返り、もう一度グレルを見たリュウ。
 グレルのダンボールを指して訊く。

「ソレ誰の荷物?」

「オレのだぞーっと♪」

「――は!?」リュウ、驚愕。「ちょ、ちょっと待て! 師匠、何であんたまでウチに来んだよ!?」

「何でって、ペットと飼い主は1セットだろーっと♪」

「ふ、ふざけんな!!」

「仕方ないって、親父」とサラ。「アタシとレオ兄の新しく出来るはずの家でだって、グレルおじさんと同居の予定だったし」

「んなこと言ったって、おまえ…!」とリュウはサラを見ながら、グレルを指差す。「あんなむさ苦しくて役立たずなデケー熊、邪魔なだけじゃねーか! レオンはシュウに続いて召使いって感じだからいいけどよ! あんなのが来たら俺のハーレムが――」

「んじゃ、今日からオレも家族ってことでよろしくな♪」

 なんて声に言葉を遮られ、ぎょっとしてグレルに振り返ったリュウ。
 グレルの指示で、引越し屋がダンボールを抱えて次から次へと家の中に入ってくる。

 それを見ながら、昨日に続いて絶叫した。

「でっ、出て行けええぇぇえぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇえぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇえええぇぇえ!!!」

 というわけで。
 シュウ宅に一気に家族が3人(正しくは2人)増えたのだった。
 
 
 
 
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