第124話 結婚式の準備


 リュウが2度K.Oされた日から一週間。
 昨日カレンの方、サラの方と共に結納を済ませた。

 結婚式はリュウとキラ、リンクとミーナのときと同じ教会で、同じように最低限しか呼ばない地味婚になることに。

 只今シュウの部屋の中。
 スケッチブックと鉛筆を握っているミヅキを、シュウとカレン、サラ、レオンが囲んでいた。
 ミヅキがカレンとサラの着るウェディングドレスのデザインを描いている最中だ。

 正直、カレンとサラ、ミヅキの会話はシュウとレオンにはよく分からない。

「ミヅキくんミヅキくん、あたくし、ドールが着る様なたくさんのフリルが入ったドレスがいいのですわ♪」

 と、カレン。

「ミヅキミヅキ、アタシはシンプルなんだけどゴージャスなやつがいいなー♪」

 とサラ。
 ミヅキがうんうん、と頷いて聞きながらスケッチブックにデザインを描いていく。

「カレンちゃんはウエストから広がったプリンセスラインがいいかな。スカートの部分全体がフリルっていうのも可愛いけど、バックだけフリルにするっていうのもオシャレだと思うよ? フリルでロングトレーンなんかどう?」

「まあ素敵っ」とカレンの瞳が輝く。「そうするのですわ! あ、それから胸元や前から見たスカート部分に薔薇のコサージュがほしいのですわ!」

「うん、分かった。それでサラちゃんはスタイルがいいから、膝まで身体に沿った形のマーメイドラインがいいんじゃないかな。膝から下の広がりには、沢山のレースで出来たフリルを入れるとゴージャスになるし」

「おお」とサラの瞳も輝く。「じゃあ、そうしてミヅキ! それからアタシも薔薇のコサージュとかほしいなあ」

「わかった。じゃあ、カレンちゃんとサラちゃんのコサージュはお揃いにしよっか」

 キャッキャウフフとはしゃぐカレンとサラの傍ら。
 シュウとレオンは顔を見合わせる。

「レオ兄、話についていける?」

「あんまり…」

「だよな…」

「でもサラが楽しそうで良かった」

「オレもカレンが楽しそうで良かった」

「…で」とレオンが苦笑した。「リュウの様子はどう?」

「ああ、なんか…」とシュウも苦笑する。「『サラの家が遠い…』とか呟いてふらふら仕事向かったけど、今朝。レオ兄とサラの今建ててる最中の家、別に遠くないよなあ?」

「うん、遠くないんだけどね。同じ家に住んでない限り、遠いって感じるんだろうねリュウは」

「困ったもんだな、親父は…」

「まったくだね…」

 とそろって溜め息を吐くシュウとレオン。

 しばらくしてミヅキがウェディングドレスのデザインを完了。
 ミヅキがシュウとレオンにスケッチブックを広げて見せる。

「そこの新郎のお二人さん、どう? 左側がカレンちゃん用、右側がサラちゃん用のウェディングドレスのデザインなんだけど。OKもらったらあとはプロに作ってもらうだけ」

「うわ、すっげー」と丸くなるシュウの目。「ミヅキ、おまえ本当こういうの才能あるよな。こ、これをカレンが着ると思うと鼻血が……」

「本当、すごいね」と感心したように声を高くしたレオンが微笑む。「サラにとても似合いそうだ」

「シュウもレオンさんもいいみたいだね。じゃあ」と、にっこり笑って手を出すミヅキ。「早く100万ずつくれない?」

「……。うん…」

 やっぱり?

 と苦笑しながら、シュウとレオンは用意しておいた100万ゴールドをミヅキに渡した。

 そのあと、シュウはミヅキの手からスケッチブックを取った。
 もう一度カレンのウェディングドレスのデザインを見つめる。

(ああ…、鼻にティッシュ詰めて結婚式に出よう……)

 と、早くもウェディングドレス姿のカレンを想像して鼻血が垂れそうになっているシュウに、ミヅキが立ち上がりながら言う。

「じゃあ、あとはそれをプロに作ってもらってね」

「おまえもう帰んの? 今日バイトねえんだろ?」

「うん、ないよ」

「んじゃあ、おまえも一緒に来ねえ? オレたちこれから結婚式挙げる教会の下見に行くんだけど」

「いや、遠慮するよ。僕これからホワイトデーぶりに可愛い子とデートだし」

「可愛い子とデート?」

 と、シュウに加えてカレンとサラ、レオンが声をそろえたとき。

 コンコン…

 と控えめにドアをノックする音が聞こえた。
 そして戸惑い気味の声が聞こえてくる。

「え…えとっ…あのっ……」

「もう終わったよ」と優しくなったミヅキの声。「レナ」

 ミヅキが言った通り、レナが顔を覗かせる。
 少し照れくさそうに頬を染めながら、シュウたちが見たことのないロリータワンピースを着ていた。

「きゃあああああ!」と思わず声をあげたのはカレンである。「レナちゃんそのお洋服どうしたの!? どうしたのかしらああぁぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁあ!?」

 とレナに駆け寄り、レナの周りをぐるりと一周してはしゃぐ。

「可愛いーっ! 可愛いのですわあぁぁぁああぁぁぁぁぁあ! これどこのブランドのお洋服なのっ? ねえ教えて、レナちゃあああああああ――」

「落ち着いて、カレンちゃん」とミヅキがカレンの言葉を遮った。「それ、ぼくが作ったんだよ」

「えっ?」と一度ミヅキの顔を見たあと、レナに顔を戻したカレン。「そうなのっ?」

「う、うんっ…」とレナがはにかんだ。「この間のあたしの誕生日に、ミヅキくんがプレゼントしてくれたんだ」

「通りでミヅキの趣味なわけだ」と、サラが納得したようにうんうんと頷く。「似合ってるよ、レナ。まぁーったく、どんどんミヅキ色に染まっていっちゃって」

 とサラがからかうように笑うと、レナが赤面した。
 カレンはまだはしゃいでいる。

「ああんもう、あたくしも着たああぁぁぁああぁぁぁぁあぁぁぁぁああぁぁぁいっ!」

「着れなくはないけど」と、ミヅキがカレンとレナを交互に見る。「レナのサイズに合わせて作ってあるからね。カレンちゃんにはバストのところにちょっとゆとりが――」

「ミ・ヅ・キ・くん……!?」

「ゴメンナサイ何でもないです」

 と早口になって殺気ムンムンのカレンに言ったあと。
 ミヅキはレナの手を取ってシュウの部屋から去って行った。

「レナとミヅキ、着々と近づいて行ってんねえ。手ぇ繋いじゃってさ」と、サラ。「付き合ってるってことはまだ聞かないけどさ。あの2人もいつか結婚まで行ったりして。――っていうか今回の話、アタシたちの結婚の準備とか言っておいてさー」

「ちょっと忘れられてるかもしれないレナとミヅキの進展の様子を、読者さまに知らせるための話の気がしないでもないよなー」

「だよねー、兄貴。結婚式の準備の話なんてなくてもいいしねー」

「なー」

「そんなことはいいからぁ」とカレンがシュウの腕を引く。「早く教会の下見に行きましょっ♪」

 というわけで。
 
 
 
 きゃっきゃとはしゃいでるカレンに連れられ、シュウとサラ、レオンは結婚式を挙げる教会へとやって来た。
 教会の中に入るなり、レオンが懐かしそうに微笑む。

「ああ…、キラとミーナのウェディングドレス姿を思い出すよ」

「やっぱりママとミーナ姉、綺麗だった?」

 と、サラがレオンの顔を覗き込んだ。

「うん、とても綺麗だったよ。ま、もちろん僕のお嫁さんも劣らないほど綺麗だけどね」

 とレオンに頭を撫でられて、サラが嬉しそうに笑う。

「でもミーナ姉の結婚式のときは、アタシもうっすらと覚えてるよ。たしか途中で親父とママが消えたような…」

「ああ、そうそう。消えた消えた」と、シュウ。「んで、オレたち兄妹は王子さまに任せられて、大人はみーんな親父たちを探しに行ってたんだよな。レオ兄、あのとき親父と母さんどこ行ってたの?」

「ええとぉ…」と苦笑するレオン。「し、知らない読者さまは前作の番外編・リンクとミーナのお話の最終話をどうぞ…。なんというかリュウらしすぎます……」

 ああ…、想像できた……。

 と呆れて溜め息が出そうになっているシュウとサラの傍ら。
 カレンがはしゃいでいる。

「あたくし、もう少しでここのバージンロードを歩くのねっ♪ ねえサラ? これだけバージンロードの幅があれば、横に並んで入場できるわね!」

「うん、そうだね。スキップして入場するんだっけ?」

「しないわよ。左足を出して右足をそろえ、右足を出して左足をそろえる。これの繰り返しでバージンロードをお父さまと歩いていくのですわ」

「親父とかあ。一緒に歩いてくれるかなあ」

「さあ…」と苦笑するシュウ。「歩いてくれなかった場合を考えて、一応他の誰かにも頼んでおいた方がいいかもな……」

「じゃあ親父が一緒に歩いてくれなかったらお願いね、兄貴」

「おう、任せろ――って、オレ新郎じゃねーかっ! おかしいだろ!」

「ま、グレルが牧師役って時点でおかしい結婚式になることは間違いなしだよね」

 そう言ったレオンに、同意して深く頷くシュウとサラ。
 カレンが教会の中を見て回りながら確認する。

「ねえ? 結婚式にはシュウのご家族とリンクさん一家、ミヅキくん、グレルさん、あたくしの家族とそれから王子さまが集まるのよねえ?」

「おう、その予定」と、シュウ。「でも王子さまはどうだろうなあ。母さんと顔合わせづらいみたいだし」

 ゆっくりと歩いて教会の中を見回しながら、祭壇の前に辿り着いた。

(結婚式当日、オレはここでバージンロードを歩いてくるカレンを待ってるんだよな)

 と、教会の扉の方へと身体を向ける。
 ちょうど教会を一周したカレンが、扉の前に辿り着いたところだった。

「ふふ、ちょっと練習」

 と少し頬を染めて笑ったカレン。
 父親にエスコートされたつもりになって、バージンロードが敷かれる道を歩いてくる。

 左足を出し、右足をそろえ。
 右足を出し、左足をそろえ。
 シュウのところへとやってくる。

 シュウの頭の中に、ウェディングドレスを身にまとったカレンが浮ぶ。

(ああ…、鼻にティッシュ忘れんなよオレ……)

 と再び自分に言い聞かせたシュウ。
 カレンがやってくるなり、ぎゅっと抱き締めた。

「って、ちょっとシュウ? 結婚式当日、そんなことしないでちょうだいよ?」

「分かってる。分かってんだけど、辛抱たまらあぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあんっ!!」

 と叫び、カレンを抱き上げたシュウ。
 カメラ目線(?)で次回予告。

「というわけで、次回の『HALF☆NYANKO』は『長男の可愛い嫁』で――」

「ハイハイ違う違う」

 と突っ込んだサラ。
 正しい次回予告をどうぞ。

「次回の『HALF☆NYANKO』は『長男&カレン、次女&レオンの結婚式』です♪」
 
 
 
 
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